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書籍のご案内

「記憶」の変容
『ニーベルンゲンの歌』と『哀歌』に見る口承文芸と書記文芸の交差  
山本 潤著
A5判・上製・横組・308頁
(本体4,500円+税)
ISBN 978-4-8115-7811-8 C1098
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内容概略
 過去の歴史的事象を核として発祥し、中世に至るまで口伝されてきた英雄詩は、声の文化の領域において「記憶」を伝承するメディアとして機能していた。ドイツ語圏でその伝統を文字の文化の領域へと導入したのが、13世紀初頭に成立した『ニーベルンゲンの歌』と『ニーベルンゲンの哀歌』である。口伝の英雄詩を作品素材としながらも、書記文芸作品として詩作されたこの二つの叙事詩は対照的な特徴を有するが、常に組み合わされる形での写本伝承がなされた。両者の構築する複合体は口承文芸の伝統と書記文芸の伝統を交差させ、そして口承と書記という対照の中に、世俗と教会、俗語とラテン語、英雄的世界と宮廷的世界といういくつもの対極を内包しており、二つのメディアが背景として持つ、様々な文化的要素の邂逅の場となっている。
 本書はそれらの要素の解釈を通して両叙事詩の文学史上の立ち位置を検証し、声の文化の領域で伝承されてきた「記憶」が、メディアの垣根を越えて文字の領域へと導入された際にいかなるものとして扱われ、変容したかという問題に焦点をあてる。そして、『ニーベルンゲンの歌』と『ニーベルンゲンの哀歌』での実践的な検証を通し、ドイツ中世盛期における共同体にとっての過去の「記憶」の持つ歴史性、そしてそれを伝えるメディアの実相の一端を明らかにする。

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目次


第1章 『ニーベルンゲンの歌』―「記憶」の継承
 1『ニーベルンゲンの歌』の口承性
  1.『ニーベルンゲンの歌』における「語り」―プロローグ詩節を巡って
  2.詩人の匿名性
 2.『ニーベルンゲンの歌』の重層構造
  1.Bヴァージョンでのシーフリト描写―第二歌章を中心に
  2.Cヴァージョンでの改訂の示すもの―Bヴァージョンでの問題点
 3.英雄的世界と宮廷的世界の相克
  1.ハゲネの「語り」―シーフリトの英雄的特性の物語世界への展開
  2.英雄の記憶―『ニーベルンゲンの歌』の内包する二つの世界
第2章 写本伝承段階における『ニーベルンゲンの歌』と『哀歌』の受容
 1.『ニーベルンゲンの歌』と『哀歌』の非連続性
 2.写本Bの『ニーベルンゲンの歌』から『哀歌』への移行部
 3.写本Cの『ニーベルンゲンの歌』から『哀歌』への移行部
 4.写本Aの『ニーベルンゲンの歌』から『哀歌』への移行部
 5.初期主要三写本の移行部の構成と『ニーベルンゲンの歌』と『哀歌』による複合体
第3章 『哀歌』―記憶の発生と対象化
 1.『ニーベルンゲンの歌』の総括と注釈としての『哀歌』
  1.クリエムヒルト擁護―「誠」を巡って
  2.シーフリトの「ubermuot」―BヴァージョンとCヴァージョンの差異にみる「古の物語」への視線
 2.「嘆き」―死者との決別と記憶の発生
  1.「嘆かれ」るクリエムヒルトと呪われるハゲネ―生者による証言
  2.生者による追悼―人物像を巡る議論
  3.英雄たちの葬送
 3.過去の克服―『哀歌』の語る「その後何が起こったか」
  1.埋葬と慰め―世界の変容
  2.物語の伝承と「嘆き」の克服
 4.書記と口承の融合―『哀歌』にみる歴史伝承観
第4章 『ニーベルンゲンの歌』および『哀歌』に見る口承文芸と書記文芸の交差
あとがき
参考文献目録

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著者

山本 潤著

山本 潤(やまもと じゅん)
首都大学東京准教授

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