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書籍のご案内

人口と教育の動態史
―1930年代の教育と社会  
木村元 編著
A5判・上製・644頁
(本体8,100円+税)
ISBN 4-8115-6981-4  C1037
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内容概略
 今日、これまで安定的にあったように見えた学校と社会との繋ぎが大きく揺れている。学校を卒業し職業社会に参入することを自明とする枠組み自体が問われているといえる。しかし、こうした両者の連絡関係は歴史的に構築されたものであり、むしろ特殊な時期の所産であったともいえる。本書が対象とした1930年代はこうした学校と職業社会がシステムとして連絡を見せた時期である。今日の教育の源がどこにあり、これからどこに向かおうとしているのか、それを見据えるための基礎研究として本書はある。
 本書は、教育の新しい展開を社会の変動と繋げて詳細に検討を加えている。なかでも義務教育後の進路動向に注目して「教育人口動態」という枠組みでその変動を捉え、学校と職業社会の大衆レベルでの連絡の形成をめぐる動向を捉えている。「教育人口動態」とは近代学校制度のなかで産出される人口現象を示すが、同時にそうした動態を捉えようとする教育的な視座が教育や教育研究を質的に展開させていく。本書はその過程に注目して考察を行ったものである。
 学校システムと職業社会の繋ぎの動態の解明にアプローチし、言説史で埋められることが多かったこの領域に対して、青少年の職業社会への移行(トランジッション)の実態を踏まえ、教育の新展開を明らかにした書といえよう。

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目次

はしがき
序章 1930年代の教育と社会をめぐる課題―人口と教育の動態史研究にむけて
 1 ペダゴジーと教育人口動態
 2 トランジッション問題の顕在化と人口問題の枠組―検討の対象 
 3 本研究の位置―関連先行研究との関係で
 4 本書の構成
1章 「人口問題」の言説空間―人口問題研究会・人口問題研究所を中心として
 1 「人口問題」と教育
 2 場の形成―人口問題研究における実践的性格の深まり
 3 「人口問題」の認識枠組み
 4 「人口問題全国協議会」での諸議論
2章 教育人口動態をめぐる議論―「人口問題」における青少年と家族
 1 人口問題と「青少年」―変動する社会における渦中の世代
 2 人口問題における家族の位置づけ─保護と自律のあいだで
 3 人口問題研究の提起したもの─教育と人口を結びつける視座
3章 義務後教育機関をめぐる教育人口動態
 1 義務後教育機関への教育人口動態からのアプローチ
 2 尋常小学校卒業人口の変化
 3 拡がる義務後教育機関への進学
 4 義務後教育機関卒業後の進路動向
 5 教育人口動態と〈学校―職業社会〉
4章 都市社会の変容―大都市の人口構造と青少年への関心
 1 都市人口の変化と青少年
 2 都市流入の時代―1920年代の動向の概観
 3 大都市青少年人口構造の変化
 4 流入青少年たちへの関心の形成
5章 少年職業紹介からみた青少年労働市場の構造
 1 戦間期の青少年労働市場への視角
 2 青少年労働人口のマクロ動態―『国勢調査』からの検討
 3 少年職業紹介利用の量的把握
 4 少年職業紹介に表れた青少年労働市場の具体相
 5 「代替ルート」から「唯一の道」へ
6章 青少年労働の新展開と職業観の変容―ジェンダーと徒弟制をめぐる諸課題
 1 青少年労働市場の実際と課題
 2 職業選択の新動向―戦間期の青少年女子労働力をめぐって
 3 青少年労働者の生活と処遇をめぐる課題―商業徒弟に注目して
 4 技能形成・伝達方式の動揺―工業徒弟をめぐる課題
 5 青少年労働の課題と「一人前」へのプロセスの動揺
7章 青少年労働における生活の主題化―「輔導」から「生活指導」へ
 1 生活という課題
 2 「少年労働問題」における「輔導」の位置づけ
 3 労働生活の格差構造と「輔導」
 4 「輔導」から「生活指導」へ
 5 労働領域と生活領域との接合
8章 労働科学における発達論の展開―桐原葆見の労働心理学に注目して
 1 労働科学としての労働心理学と教育
 2 労働科学研究所と桐原葆見
 3 労働者の発達論―近代労働の捉え返し
 4 労働科学と教育科学の結節点
9章 「科学的精神」論から「生活の科学化」へ―科学観の社会的定着に着目して
 1 科学に関する議論の活発化と「科学的精神」
 2 多様な「科学的精神論」の提起
 3 「生活の科学化」が前提とした科学観
 4 技術のとらえ方と科学観
10章 教育実践と教育学の新展開の諸相―ペダゴジーの新たな段階をめぐって
 1 教育実践と教育学の関係性の変容
 2 民間教育運動・実践の新展開―実践の学による再構成
 3 講壇教育学の転換の動向
 4 教育科学の展開とその社会的基盤―教育実践と教育研究の新しい連携の動向
結び―ペダゴジーの新展開とその基盤
主要索引

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著者

木村元 編著

木村元(きむら はじめ)
一橋大学大学院社会学研究科教授

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